大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台高等裁判所 昭和51年(ネ)40号 判決

主文

本件訴訟を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

第一、当事者双方の求める判決

一、控訴人

原判決中控訴人に対する部分を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二、被控訴人

本件控訴を棄却する。

第二、当事者双方の主張及び証拠関係

当事者双方の事実上及び法律上の主張並びに証拠の提出、援用、認否は、次のとおり付加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

1. 控訴代理人は、「(一)訴外本田幸輝が本件建物を賃借してその引渡しを受けたのは、遅くとも昭和四十二年五月十五日以前であつたから、その後に本件建物について設定登記されたすべての根抵当権者にその賃借権を対抗し得るものであり、したがつてまた右本田幸輝から訴外南進を経て適法に右賃借権の譲渡を受けた控訴人も、本件建物賃貸借をもつて右根抵当権者及び競落人である被控訴人に対抗し得るものである。(二)被控訴人がその主張の日に本件建物について所有権移転登記を受けたことは認める。」と陳述した。(立証省略)

2. 被控訴代理人は、「控訴人主張の右(一)の事実は否認する。かりに控訴人において、その主張のとおり、本件建物賃借権の譲渡を受け、且つその譲渡につき訴外宮城地所株式会社の承諾を受けたとしても(あるいはまた右会社から直接賃借したものとしても)、右賃借権譲渡の承認(又は賃貸)は、本件建物に対する競売開始決定後になされたものであるから、その差押の効力により、その競売における競落人である被控訴人に対抗することができないものである。なお、被控訴人は昭和四十七年七月六日本件建物について所有権移転登記を受けた。」と陳述した。(立証省略)

理由

一、本件建物は、もと訴外宮城地所株式会社(以下「訴外会社」と称する。)の所有であつたが、同会社において訴外永島繁満の債権担保のため本件建物に根抵当権を設定(昭和四十三年一月三十日登記)していたところ、同訴外人の申立により、仙台地方裁判所昭和四三年(ケ)第三六号不動産競売事件として、同年四月二十二日競売手続開始決定があり、同日競売申立登記がなされ、被控訴人が昭和四十七年五月二十六日本件建物を競落し、同年六月一日競落許可決定を得て競売代金を完納したので、同年七月六日原告への所有権移転登記がなされたこと、控訴人が本件建物の一階部分のうち、被控訴人主張の部分約四十三・八九平方メートル(原判決添付図面の「スナツクアシール宮本朝子」と表示されて赤線―「編者注」太線をもつて示す。―で囲まれた部分。以下「本件占有部分」と称する。)を昭和四十七年七月六日以前から占有していること、右占有部分の賃料相当額が一ケ月金五万六千円であることは、当事者間に争いがない。

二、そこで控訴人の抗弁について考えてみるのに、かりに本件占有部分に対する控訴人の占有権原が控訴人主張のような事由に基づくものであるとしても、本件建物について前示のように昭和四十三年四月二十二日競売手続開始決定がなされ、同日その旨の競売申立の登記がなされたことは当事者間に争いがないのであるから、控訴人が訴外南進から本件占有部分の賃借権を譲り受け、これについて前所有者である訴外会社の承諾を得たのは、右競売手続開始決定の後(控訴人主張によれば昭和四十七年三月十八日)であるということになる。そして抵当権の実行による競売手続開始決定があり、その旨の競売申立登記のあつた後に、当該競売の目的である建物の所有者が、その建物の賃借権の譲渡に承諾を与えたとしても、その譲渡の承諾は、競売手続開始決定の差押の効力により禁止された処分行為として、その競売における競落人に対抗することができないと解すべきであるから、控訴人の右抗弁は、理由がないというべきである。

三、次に被控訴人の本件明渡請求をもつて権利の濫用であるとする控訴人の主張が理由のないものであることは、原判決がその理由第三項において説示するとおりであるから、ここに右説示を引用する。

四、以上の次第であつて、控訴人の本件建物に対する占有は競落により本件建物の所有権を取得した被控訴人に対抗し得る事由がなく、したがつて、控訴人は被控訴人に対し、本件占有部分を明渡すとともに、被控訴人が本件建物の所有権を取得した日の後である昭和四十七年七月七日からその明渡済みまで一ケ月金五万六千円の割合による賃料相当の明渡遅延による損害金を支払う義務があるといわなければならない。

五、よつて、右と同一結論の原判決は相当であつて本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担について、民事訴訟法第九十五条、第八十九条を適用して、主文のとおり判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例